抜歯を回避し、理想の歯並びへ導く「MSE矯正」
2025年11月7日
「歯を抜かずに美しい歯並びを実現したい」と願う方にとって、上顎の骨を広げる「MSE矯正」は魅力的な選択肢の一つです。
この革新的な治療法は、従来の矯正治療では抜歯が必要とされた症例においても、上顎を骨格的に拡大することで非抜歯での治療を可能にします。
MSE矯正とは?
MSE(Maxillary Skeletal Expander)は、UCLAのムーン教授が開発した上顎骨を骨格的に拡大する装置で、MARPE(Miniscrew Assisted Rapid Palatal Expansion)とも呼ばれます。
上顎の骨は左右二つの骨が「正中口蓋縫合」という結合部で繋がっています。
子供の頃は柔らかいこの結合部も、成長と共に強固になります。
MSE矯正では、この結合部の左右に合計4本のミニスクリューを埋入し、左右の骨をゆっくりと離す力を加えることで、新たな骨が形成され、上顎が拡大されます。
これにより、成長期を過ぎた成人でも上顎の骨を拡大することが比較的容易になり、抜歯をせずに歯列を整える機会が増えました。
MSE矯正が適しているケース
MSE矯正は、以下のような状態に適応されます。
- 上顎の歯列が狭い「狭窄歯列」
- 上顎の骨の成長が不十分な「上顎劣成長」
- 骨格的な問題があり、外科手術が必要となる境界線の症例
- 狭窄歯列が原因で下顎が前に出ているケース
- 軽度な拡大で抜歯を避けられる症例
MSE矯正の主なメリット
- 抜歯の回避: 上顎を拡大することで得られるスペースを利用し、歯のガタつきを解消できるため、これまで抜歯が必要だったケースでも非抜歯で治療できる可能性が高まります。
- 睡眠時無呼吸症候群の改善: 狭窄歯列が舌根沈下を引き起こし、気道を狭めることがありますが、上顎の拡大により舌のスペースが確保され、気道が広がることでいびきや睡眠時無呼吸症候群の改善が期待できます。
- 口呼吸の改善: 鼻腔が広がることで鼻呼吸がしやすくなり、全身の健康につながるのはもちろんのこと、口臭、虫歯、歯周病、感染症のリスク軽減にも繋がります。
- 審美性の向上(バッカルコリドーの改善): 笑顔の際に歯列と口角の間にできる「バッカルコリドー(黒い隙間)」が広すぎる場合、歯列の幅を広げることで、より華やかで自然な笑顔に近づけます。
- 体への負担の軽減: 成人の上顎骨拡大は全身麻酔を伴う手術が必要でしたが、MSEは局所麻酔下でミニスクリューを埋入するだけで可能であり、患者様の身体的負担が大幅に軽減されます。
入院や仕事の長期休暇も不要で、40代、50代の方も治療を受けられます。 - 歯肉退縮リスクの軽減: 歯を外側に押して拡大する従来の装置と比較し、MSEは骨自体を拡大するため、歯を支える歯槽骨へのダメージを抑え、歯肉退縮などの長期的な問題を軽減する効果が期待できます。
考慮すべきデメリット
- 装着初期の不快感: 装置装着直後は、発音しにくさや違和感を覚えることがありますが、時間と共に慣れていきます。
- 清掃と食事への注意: 固定式の装置であるため、歯磨きや食事の際に繊維質の食べ物が挟まりやすく、丁寧に清掃しないと虫歯や歯周病の原因となる可能性があります。
- 痛みや違和感: 上顎の骨を広げる力が加わるため、治療中に痛みや違和感を感じることがあります。
- 一時的な隙間: 上顎骨の拡大に伴い、一時的に上の前歯に隙間が生じることがありますが、その後の矯正治療で閉じられます。
- 鼻の形状変化の可能性: 鼻腔が広がり鼻呼吸がしやすくなる一方で、拡大の度合いによっては鼻の横幅がわずかに広がる可能性もあります。
MSE矯正の一般的な流れ
- 検査・診断: 歯並びや骨格の状態を詳細に検査し、MSE矯正が適応されるか判断します。
- MSEの装着: 局所麻酔下でミニスクリューが埋入され、装置が固定されます。
- 上顎の拡大: 患者様自身が回転レンチでナットを回し、上顎の骨を段階的に拡大していきます。
- 歯列の調整: 上顎が適切な幅に広がった後、ブラケットやマウスピース型矯正装置を用いて歯並びを整えます。
- 治療終了と保定: 歯並びが整ったら治療が終了し、保定装置を装着して後戻りを防ぎます。
費用について
MSE矯正の費用は歯科医院によって異なりますが、通常の矯正治療費に加えて、別途MSEの装置費用が発生することが一般的です。
MSE矯正は、歯を抜かずに理想的な歯並びを目指せる画期的な治療法ですが、固定装置による清掃の注意や、治療中の違和感なども考慮する必要があります。
治療を検討される際は、まず矯正歯科で専門的な検査と診断を受け、ご自身の症例に適しているか、メリットとデメリットを十分に理解した上で歯科医師と相談することをお勧めします。

